1. 温度地図からピークのグラフへ

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は初期の熱放射が膨張によって長波長側へ移ったものです。平均温度と方向ごとの小さな温度ゆらぎは異なる情報です。Hu・Dodelsonの総説はΔT/Tを球面調和成分に分け、角パワースペクトルで表す方法を説明します。

横軸の多重極ℓは時間でも観測周波数でもありません。大きいℓほど小さい角度の構造です。縦軸も温度そのものか、Cℓか、ℓ(ℓ+1)Cℓ/2πかを確認します。同じ資料でも表現によって高さの意味が異なります。

2. 複数の音響ピークができる理由

初期の光子・バリオン流体では重力と圧力によって圧縮・希薄化の振動が生じました。光が頻繁に散乱していた時期の振動状態が後の温度ゆらぎに反映されます。総説はバリオン負荷が交互の振動振幅に影響し、放射による駆動や拡散減衰もピークの高さを変えると説明します。

一つのピークの高さや二つの比を、そのまま物質組成全体に換算しません。複数ピークと偏光をモデル予測に合わせて比較します。

3. Planckの「100θ*」を読む例

Planckのパラメータ論文の§3.1はθ* = r*/DMを定義します。再結合時の共動音響地平線と、それを空の角度へ換算する共動距離が入ります。TT,TE,EE+lowEの組合せは100θ*=1.04109±0.00030(68%)を報告します。

100で割るとθ*=0.0104109ラジアン、約0.5965度です。報告尺度の単位換算で、特定の第1ピークの位置そのものではありません。温度と偏光のピーク位置は異なっても同じ音響尺度を制約できます。数値とともにデータの組合せと不確かさを残します。

グラフの観測と解釈を分ける

図を見るときは、凡例とキャプションで点・誤差棒が観測解析の結果か、線が特定の宇宙論モデルの予測かを確認します。例えばPlanckのTT,TE,EE+lowEは、温度・偏光スペクトルと低ℓデータを組み合わせたデータ選択を表します。報告値100θ*=1.04109±0.00030は、その組合せが制約した音響角尺度です。100で割り、ラジアンから度へ換算すると約0.5965°ですが、この計算からH₀が直接得られるわけではありません。

読み方を三段階に分けると整理しやすくなります。観測段階:空の地図から角度ごとの温度・偏光ゆらぎのスペクトルを推定する。尺度の制約:複数スペクトルの振動パターンから音響角尺度を制約する。モデル推定:ΛCDMなどのモデルと複数のパラメータをデータに当てはめ、H₀などを推定する。Planck論文は音響角尺度を幾何学的に堅牢でほぼモデル非依存の測定と説明しますが、後続の宇宙論パラメータも仮定なしに直接測定したという意味ではありません。この三段階を分けると、「図から直接読む観測量」と「データをモデルに当てはめた推定値」を混同しにくくなります。

4. CMBと銀河BAO、観測と推定

CMBは空の温度・偏光ゆらぎ、後期の銀河BAOは銀河分布の別観測です。初期の音響物理でつながりますが同じグラフではありません。Planck論文には別のBAO資料との結合解析もあり、結果がCMB単独か結合かを確認します。

論文は音響尺度の頑健な幾何学的制約と、基本ΛCDMを仮定する後期宇宙パラメータを区別します。H0を「ピークから直接読んだモデル非依存値」とすれば、その推定過程を省いてしまいます。

5. 出典

Hu・Dodelson, Cosmic Microwave Background Anisotropies; Planck Collaboration, Planck 2018 results VI, §3.1。本文はCMB音響構造の読み方を扱います。