1. 銀行レバレッジの脆弱性とバーゼル規制の策定背景

商業銀行は少額の自己資本をもとに預金や短期調達を活用して長期融資や有価証券運用を行う高レバレッジのビジネスモデルを持っています。保有資産のデフォルトや信用不安による預金引き出し(取り付け騒ぎ)が発生した場合、単一金融機関の破綻にとどまらず金融システム全体の決済機能停止や急激な信用収縮を引き起こすリスクを孕んでいます。これらを未然に防ぐため、国際決済銀行(BIS)傘下のバーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、各行が資産リスクに応じた最低自己資本基準を国際的に示してきました。バーゼル基準は各国当局が国内規則として実施するため、適用範囲や導入時期は国によって異なる場合があります。

2. バーゼル3におけるCET1重視と資本バッファーの重層化

2008年の世界金融危機を契機に策定されたバーゼル3では、規制資本の「質」が抜本的に強化されました。最も損失吸収能力が高い普通株式や利益剰余金から構成される「普通株式等Tier1(CET1)」が規制の中核に据えられました。銀行は信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクから算出されるリスク加重資産(RWA)に対し、最低4.5%のCET1比率、6.0%のTier1比率、8.0%の総自己資本比率の維持が義務付けられています。さらに平時からの蓄積を求める資本保全バッファー(2.5%)や景気過熱時に上乗せされるカウンターシクリカル資本バッファーが重層的に導入されました。

3. 流動性規制の導入とレバレッジ比率による補完構造

健全な資本比率を維持していても短期的な資金流出に対応できなければ破綻に至るという教訓から、バーゼル3は新たな流動性基準を新設しました。流動性カバレッジ比率(LCR)は、30日間の厳しい資金流出ストレス状況下でも直ちに換金できる適格高品質流動性資産(HQLA)を純資金流出額以上(100%以上)保有することを義務付けます。ネット安定調達比率(NSFR)は、加重後の利用可能安定調達額(ASF)÷必要安定調達額(RSF)で算出し、継続的に100%以上を維持します。安定調達の信頼性を評価する時間軸は1年で、資産・オフバランス項目の流動性特性と残存期間がRSFの加重に反映されます。すべての長期資産を1年超の調達源と一対一で満期対応させる規則ではありません。リスク加重モデルの恣意性を抑制するために総資産エクスポージャーに対して3%以上のTier1資本を求める非リスクベースのレバレッジ比率が相互補完的に運用されています。

4. 専門家の視点: BISによる資本規制研究とその範囲

BISの評価報告は実施されたバーゼルIII改革の効果と有効性を検討します。国際最低基準と各国の国内規則・導入時期は区別が必要であり、自己資本規制だけで貸出や危機の結果が保証されるわけではありません。

仮定の数値で最低基準とバッファーを分ける

架空の銀行が規制調整後CET1を720Mドル、RWAを10,000Mドル保有すると、比率は720M ÷ 10,000M = 7.2%です。CET1最低基準4.5%を2.7ポイント、2.5%の保全バッファーを加えた7.0%を0.2ポイント上回ります。他のバッファーはないとします。損失でCET1が620Mドルに減りRWAが一定なら6.2%となり、最低値は上回る一方、分配制限が生じ得るバッファー範囲に入ります。適格資本でTier 1・総資本の最低基準を別途満たす前提です。自動的な破綻判定ではありません。各国の追加要件も確認します。数値は仮定であり、バーゼル基準は各国の国内規則を置き換えません。

出典および参考資料: